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東京高等裁判所 平成7年(ネ)427号 判決 1995年6月27日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

一  控訴人は、「1原判決を取り消す。(一)(本訴)被控訴人の本訴請求を棄却する。(二)(反訴)<1>控訴人と被控訴人間において、控訴人が原判決別紙会員権目録記載のゴルフ会員権を有することを確認する。<2>別紙証券目録記載の証券を引き渡せ。2訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決並びに右1・(二)・<2>項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、理由中に掲記するほか、原判決事実摘示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決三枚目裏七行目末尾の次に行を改め、以下を付加する。

「被控訴人が本件ゴルフ会員権の二重譲渡につき悪意であったとの控訴人の主張は否認する。むしろ、被控訴人は善意である。すなわち、被控訴人は、ワイ・エム・ユーに真実二三〇〇万円の融資したものであり、その担保の実行として同社から本件ゴルフ会員権及びその他の会員権を譲渡を受け、民法六六七条所定の債権譲渡の要件を具備して取得したものであるが、融資当時の本件会員権の相場価格は、本件会員権が一六〇〇万円で他の会員権が四八〇万円で、以上合計二〇八〇万円であり、その債務の履行がされていないのである。したがって、被控訴人が右融資に係る債権の回収のためにワイ・エム・ユーから本件ゴルフ会員権の譲渡を受けたのは、全く通常の融資(むしろ、担保不足部分は信用貸し)とその担保実行のためにされたものといえるのであって、被控訴人には、被控訴人が本件ワイ・エム・ユーから本件会員権を二重譲渡されたことにつき、控訴人が主張するような悪意があったはずがない。」

2  原判決四枚目表三行目末尾の次に行を改めて、以下を付加する。

「 仮に、控訴人が本件ゴルフ会員権譲渡の対抗要件として、沼津観光開発に対しゴルフクラブへの入会申し込みと同社による入会承諾を得て名義書換手続を完了したことによっては、これを具備したといえないとしても、被控訴人は、債権譲渡を受けるにつき一般にはゴルフ会員権譲渡についての対抗要件が民法四六七条二項所定の手続が対抗要件であることを殆ど知られていないのに乗じて、控訴人が本件会員権の名義書換書類を預かり、右書類を添えてゴルフクラブに入会申し込みをし、同クラブから名義書換の承諾を得たうえ名義書換申請書を提出したが同条項所定の対抗要件を具備していないのを知ったうえで、これを奇貨として、同条項所定の確定日付ある譲渡通知を沼津観光開発にしたものである。したがって、被控訴人は背信的悪意者であるから、控訴人は本件ゴルフ会員権譲渡につき対抗要件具備せずして被控訴人に対抗することができる。」

三  証拠関係(省略)

四  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があるが、控訴人の反訴請求は理由がないものと判断するが、その理由は、以下に付加するほか、原判決理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表一一行目末尾の次に行を改めて以下を加え、同枚目裏一行目冒頭の「4」を「6」に改める。

「4 さらに、控訴人は、ゴルフ会員権の名義書換手続が完了すれば、その譲渡承諾につき確定日付を得る必要なく第三者に対抗できることになると主張するようであるが、各ゴルフ場会社による名義書換の時期が具体的にいつかは、第三者に分からないことであるから、ゴルフ会員権の譲渡を受けようとする者は、当該ゴルフ場会社で名義書換手続をしている者があるか、また、右手続完了日はいつであるかを調査しなければならず、画一的に動かせない証明可能な日付をもって優劣を決めようとする指名債権譲渡の対抗要件の意義を無視するに等しいことになるから、右名義書換手続完了日を対抗要件具備の基準日とみなすべきとすることは、およそ困難である。控訴人の主張は、ひっきょう、ゴルフ場会社により名義書換を受けた者は、確定日付ある債権譲渡通知をすることなくとも、もしくは、右名義書換手続をする前に確定日付ある債権譲渡の通知をした者がいても、右名義書換手続を完了した者が優先して対抗できることになるというのであろうが、このような見解は、指名債権譲渡の対抗要件の特別なものと視て、ゴルフ会員権の譲渡の場合だけを特別扱いをすることになりかねず、到底これを採用することはできない。その他、控訴人は、ゴルフ会員権の譲渡についての対抗要件につき、その要否を含め縷々いうが、そのいうところは要するに、立法論ならともかく、現行民法のもとでは、四六七条所定の対抗要件の具備の趣旨を全く無視し去るに等しい、ひっきょう、独自の見解であるというしかなく、採用の限りでない。

5 控訴人は、被控訴人は背信的悪意者であるから、控訴人は債権譲渡の対抗要件を具備してないくとも、被控訴人に対抗できると主張するが、原判決認定の事実関係のもとでは、被控訴人に控訴人のいう背信的悪意があるとはいえず、むしろ通常の融資をした債権者が、正常な取引価格の把握による右債権の担保の実行として本件ゴルフ会員権の譲渡を受け、その回収を図ろうとしている善意の債権譲受人であると推認できるのである。右控訴人の主張は、採用することができない。」

五  よって、被控訴人の本訴請求は理由があるとして認容し、控訴人の反訴請求は理由がないとして棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担について、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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